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Henry’s Fork ある年の14日間の記録

Henry’s Fork ある年の14日間の記録

Day1

空港9月3日。日本のうだるような暑さから一転、乾燥しきった気候のユタ州 ソルトレイクシティの空港に降り立ったのは日本を発っておよそ14時間後。

アメリカ時間では午後4時だけど日本時間では朝の7時。夜を飛び越えて前日に戻る感覚は何度経験しても慣れることは無い。
とにかく眠いが緊張気味の神経が睡魔にやられた脳みそのキツケ役となってくれているようだ。

ソルトレイクへはトランジットのためサンフランシスコを経由するが、そこで会ったヒスパニック系であろうおばちゃん。

空港のインフォメーションの係のようで、混雑でごった返したセキュリティーゲートから追い払われて別ゲートに向かう途中、向こうから声を掛けてきた。

「ちょっとあんた!どこ探してるの?チケットみせて。」

「えーと・・G67ゲートだけど分かるからいいよ」

「そんなこと言わないで見せてみなよ。えーとこっちこっち。付いて来な!
(モニターでゲートを確認するおばちゃん)そーだねあんたのゲートはG67だから
そこの突き当たりだよ。(だから知ってるって言ってんだろ!!)」

「(まぁいいや)とにかくありがとう!ばーい!」

「ちょっとお待ちよ!!あんたに見せたいものがあるんだよ!まだ行くんじゃないよ!!これこれ、これ見てみなよ。世界中には困っている子供達がいて・・・ナンタラカンタラ・・。」
見事、募金のおばちゃんのカモにされ5ドルもふんだくられた私は逃げるようにセキュリティゲートに向かった。。

先だってのテロ未遂でライターはもちろん120cc以上の液体も持ち込み禁止。数年前から続いているテロへの警戒は未だに緩む気配はなさそうだ。

今日の目的地はまだ決めていない。とにかく空港から車を飛ばして目ぼしいモーテルに入ることだけは決まっていた。

明日の予定はソルトレイクから3時間ほど東に位置するグリーンリバー。インターステイトハイウェイ80号(I-80)に乗るために、やや南に下ったところのモーテルに滑り込み、アメリカでのスタート地点を確保した。

一泊35ドル。ドアがガタ付いていたり、テレビなどの備品に不備があるがどうせ寝るだけだ。おおむね良好。
受付のお姉ちゃんの言う「ルームナンバー2(トゥ)」が日本語の「9(きゅう)」に聞こえる。先が思いやられる。。

ガソリンスタンドでパンにソーセージを挟んだだけの、実に質素なホットドックとバケツサイズのコーラを買って胃に詰め込こむと、満腹感と疲れでいつの間にか眠ってしまった。

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Day2~3 Green River

日の出
気が付くと朝の3時。一度目が覚めるともう一度寝ることなど考えられないほどのパッチリお目めで、絵に書いたような時差ボケ。。
夜が明けるのは6時過ぎなので時間を持て余し、キャンプやら釣りやらを始める為の準備をして朝を待ち、まだ交通量の少ないダウンタウンを抜けて走り出した。

肌を指すような冷たさを感じて早速フリースのジャケットを着込む。

夜明け前の冷え込みは同じ時期の日本と比べても20度以上の気温差。気付かない内に肩にも力が入る。

まだ慣れない運転も手伝って妙に違和感がある。おかげでハイウェイのジャンクションを2回も見落としてしまったが、日が昇るにつれてぐんぐん上がる気温とともに緊張も徐々に薄れていくようだった。

 

グリーンリバーという名前は以前からいろいろな釣り人から聞いていた。

曰く、全米でもトップクラスの魚影の濃さ。ダム下のテイルウォーターの流れは一年中一定の水温でそこに棲む魚は至ってパワフル。何人もの現地の釣り人がグリーンリバーを一番のお気に入りとして挙げていたこともあり、いつかは釣って見たい川の一つだった。

 

地図で見ると、なるほどフレミングゴージダムのテイルウォーターであり、I-80にはGreenRiverの名前の出口もあることから、アクセスは想像通りと思っていたのだが、実際にはこのフレミングゴージ湖、全長50km以上もある超ビッグなダムで、走れど走れどなかなか着かない。

 

おまけにマニラって町で道間違えて、さっき走ってきたI-80に戻って来ちまう大失敗により2時間プラス。(実際はI-80からMountain viewでおりて414号で南に向かうのが正解で、私のコースだと2時間は余計に掛かる)結局通り過ぎたマニラの町のKOAキャンプ場にテントを張り、釣り場に着いたのは午後の4時。着いた頃にはホトホト疲れ果てていた。

崖
ダムのすぐ下にリバーアクセスがちゃんとついていて、そこから高低差100mはあろうかという崖を下って川に下りることが出来る。(写真右がトレイルです・・。)

驚くべきはこの川。両岸が垂直に切り立った崖に挟まれているのだが、川に入らなければ歩き通せない所は、その壁沿いにご丁寧に木製の橋が掛けられており、その距離なんと7マイル(11km)以上。。

とにかくトレイルがしっかりしていて、何の苦労も無く魚探しながら歩くことが出来る。

最初は気付かなかったが、ダム直下ではあまり魚影が見当たらなく、ハッチも何もなくなんだかなぁ~なナンジではあったが、次の日下流まで歩いていくと、いるじゃありませんかサカナカサナサカナ。

のん気にぷかぷか浮いているヤツありパクパクニンフ食ってるヤツあり。水はとても澄んでいるので全部丸見え。2日間で数匹のレインボーとブラウンと遊べた。

特にブラウンの数が多いのでブラウンばかりをサイトフィッシングで狙うことも可能であり、ジャンプとランを繰り返すファイトはブラウンらしからぬ素晴らしさで、キャッチできたのは16inchが最大であとは全部逃げられた。とほほ。

惜しむらくは2日間の間、ハッチが極薄でライズの釣りが出来なかったことだった。ハッチの良い7月などはそれはもう凄い事になるらしい。

146
バーテンダー
話は変わるが、釣り場近くの起点となる町はManila以外には無いようで、ここからダム下の流れまでは40分と結構遠い。

途中、峠を抜ける田舎道なので、釣りが終わって帰る頃にはもう真っ暗。エルクやディアなどの大型動物が出てくる道なので、夜のドライブは遠慮したほうがいい。

この日の帰り、時差ぼけの睡魔に襲われ3回ほど居眠り運転をする始末。
おまけにManilaの夜は早く、8時にはグロッサリーストアは閉店。9時以降はバーのキッチンも閉まってしまうため釣りから上がって帰ってくると飯を食いっぱぐれる可能性大。

実際私も食いっぱぐれそうになったがガラは悪いが人は良いバーテンダーのおばちゃんが冷蔵バーガーとポテチをチンしてくれたので助かった。

こんな片田舎では釣りが盛んな町以外はさっさと店じまいしてしまう。
Manilaの町も例に漏れずグリーンリバーの起点の町にも関わらず、フライショップも無く、釣り的にはやる気”ゼロ”の町なので要注意だ。(後にわかった事だが、実はこの界隈の釣りの拠点はManilaよりも南に下ったRed Canyonという街らしい。とほほ。)

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グリーンリバー2日目の夜。
朝日

KOAキャンプグラウンド主催のカラオケ&バーベキュー大会が、なななんと筆者のテントサイト真っ正面の広場にて開催され、今まさに始まったばかりのタイミングで釣りから帰ってきてしまった。

その音量たるやハンパではなく、”静かな夜をマッタリと過ごす”という、キャンパーにとってはすこぶる当然で健全なモクロミは大音量であり、且つ、超ヘタッピーをよりラウド!にした絶句判アメリカンキャラオケにより脆くも崩れ去った。

こりゃたまらんと言ったかどうかは忘れたが、そそくさと昨日のバーに向けていつもよりコッソリふうに車で出発。
バーにしては珍しい、すばらしく美味のプライムリブサンドイッチを食し、ジントニックをちびちびやる事しばし。明日からの予定をボ~っと考えていた。

ソルトレイクシティからここまで、なんだかとっても時間が掛かってしまったが、正しい道順をたどればやはり3時間以内でソルトレイクまで帰れる。
次の予定はヘンリーズフォークなのでソルトレイクから5時間。計8時間か・・。

一日8時間、一人の運転は経験上ちょっと辛いものがある。ほとんどは睡魔との戦いになるのだが、途中都会を抜けなきゃならないし、腰は痛いし暇だし。。
本来ならソルトレイクかその先の町で一泊し、次の日にもうちょっと走ってヘンリーズフォーク入りするのが楽だ。が、ここで思う事があった。

野菜が食いたい。もとい、サンドイッチが食べたい。

アメリカに着いてからというもの、これと言って野菜を食べた覚えが無い。

日本だったら特に意識しなくても定食頼めばサラダがついてくるし、そもそも料理自体に野菜が半分以上は入っているんじゃないだろうか?

ともかく栄養というものを自分で意識しなくても自然と摂取できるのが日本だろう。だがアメリカでは事情が違う。一般的な食べ物といったらハンバーガー、ホットドック、フライドチキンにピザにブリトー。。

成人病になるにはモッテコイのメニューのオンパレード。コンビニにサラダなんて気の利いたものは置いていやしない。最初の内はこんなメニューでも十分感動?できるのだけれど、4日も過ぎれば苦痛になってくる。

そんな単調な食生活に唯一の野菜を運んでくる食べ物。それがグラブステークマーケット(コンビニ)のサンドイッチだ。
ヘンリーズフォークを訪れる釣り人は誰でも知ってる、もちろん日本からの釣り人の栄養源でもあるサンドイッチは野菜万点栄養万点ボリュームも完璧な一品で、アメリカで唯一、毎日食っても大丈夫!なリストにノミネートされている。

そんなわけで、しばし考えた末、やっぱりサンドイッチが食いたいから、がんばって8時間の道を走って行こうという結論に至った。

よって明日の朝は7時出発の5時起きなので早く寝よう。
全てはサンドイッチのために。(釣りの為ではない。)

テントサイト

Day4

予定通り5時に起きて我が家(テント)をたたんで車に突っ込み、シャワーを浴びて準備をしていると、白々と夜が明けてくる。日本でキャンプしていても朝の清涼感は格別だが、アメリカで味わうそれは、周りの景色や空気が一味違って素晴らしいものがある。
地平線から上がってくる朝日をバックミラーに映しながら、414号線を西に向けて予定時間ぴったりにManilaの町を後にした。

交通誘導員
I-80に合流する手前、数マイルの間、工事中の区間があった。片側交互通行のようで工事区間入り口に「STOP」の看板を持ったおばちゃんが立って誘導している。
アメリカでは、工事の為に止められた車列の先頭は、「STOP」の看板の人とおしゃべりを楽しまなくてはならない(と思う)。なぜかは知らないが、いつもそうなのだからしょうがない。このときもそうだ。
ツカツカと歩いて来たおばちゃん「その先で工事してるから5分は待ってもらうよ~。」
「OK。それにしても寒いね」
「ほんとに嫌になるわ。雲行きが怪しいけど今日の天気知ってる?」
「さっきラジオで時々雨になるって言ってたよ。」
「えー、いやだわ。濡れるのだいっ嫌い。あなたはどこまで行くの?え、アイダホ?そりゃ遠いわねぇ。。途中こんな工事が多いから多めに時間が掛かるわよ。気をつけて。」

おばちゃんの「時間が掛かるわよ」が気になるが、まぁ行ってみない事には始まらない。写真を一枚撮らせてもらい先を急ぐ。

町に近づくにつれて車の交通量はどんどん増えていき、心無しかスピードも上がってくる。アメリカの大都市のハイウェイは実に上手く作ってあって、いくつものジャンクションが重なるようにして分岐し、目的の方向に向かう事が出来る。ほとんどの場合一回しか出てこない標識や、ひしめく様に車線変更を繰り返す周りの運転に、始めのうちはかなりビビって運転していたが、遠慮しながら運転していると余計にキケンであり、周りのスピードと合わせ(ようするにスピードオーバー)て運転するとより安全であるという事に気付いてからは運転自体もずいぶん楽になった。途中、何箇所か工事があったがほぼ予定通り3時間でソルトレイクシティに入った。

ソルトレイクからさらに4時間。ハイウェイ20号を北上しAshtonの町に入ればあと少し。Targhee National Forestを見送ると、続いて左にHarriman State park の看板が見えてくる。左右にずっと続いていた針葉樹の林が切れて視界が開けると、幅40mほどの川とそれを横切る橋、オズボーンブリッジに差し掛かる。
初めて訪れた時から何も変わっていない流れ。釣り人の姿は見えないが、オズボーンの下流や、遠くに見えるサードチャネルからはハイシーズンの熱狂が伝わってくるようだ。

シーズン終盤の9月4日、やっとヘンリーズフォークに帰ってきた。

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Day4
サンドウィッチオズボーンブリッジから3分ほどで制限速度が45マイルになる。アイランドパークの入り口だ。人口200人程のとても小さな町だが、そこに暮らす人たち、何にも無い町の雰囲気、もちろんそこに流れている川も、全てが素晴らしく、アメリカに行く理由の全てはここにあると感じる。もちろんサンドイッチもここにあるわけだ。

早速グラブステークに立ち寄り、ブラッドリーと奥さんダイオンと一年ぶりの再会。素晴らしい人たちで、会うと本当に嬉しい気持ちになれる。しばしの談笑の後、サンドイッチを作ってもらい、ラストチャンスからビックベンドまで見渡せる”お立ち台”と呼ばれる場所でサンドイッチにかぶりついた。

激ウマ・・。

ブラッドリーたち
一通りの食事を済ますといつものキャンプ場に行って、みんなに挨拶。大歓迎で迎えてくれた。米松の横に我が家を設置してベンチを引きずって来て”住まい”の完成。
設置したてのベンチに寝転んで空を見ていると、幸福感で釣りなんてどーでもいいような気にもなってくる。が、これと言ってやることも無いので、とりあえずライセンス買って川に出てみるが、この日は風が吹き止まず竿を振る事も無く終了。その夜ブラッドリー宅で食事をし、ほろ酔いでキャンプ場に帰った。明日からは釣り三昧だ。それ以外のことはなーんにも考える必要がない。極楽極楽・・。

ヘンリーズフォークの釣りはタフだ。時には上手くいって魚を手にする事もあるが、そのほとんどは辛酸を舐めさせられる事ばかり。明日からの釣りがその予想を上回るものである事はこの時は知る由もなかった。

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Day5

昨日は釣りには出かけたが、散歩に終わってしまったので、気分的には今日が初日だ。
初めてアメリカの田舎町に来た時には、その空の大きさに驚いたものだった。あまりにも広すぎて、空一面が雲に覆われると聞いても信じられないほどの空の大きさだ。今日は朝からそんな曇りの日だった。

曇り空
テントからはい出ると、いつもの日差しが無くとても寒い。何か暖かい飲み物が欲しくなってキャンプ場内のストアでたっぷりのアメリカンコーヒーとシナモンロールを買い、オーナー夫妻のジェフとリネット、雑用係のべッキーと談笑。朝っぱらからの英会話で脳みそフル回転で微妙に疲れるが、これから2週間、キャンプ場での朝の談笑が日課となり、毎朝の楽しみにもなった。

「デッカイの釣ってくるから~」と言い残し、キャンプ場を出ていきなり100kmのスピードで釣り場に向かう。
ヘンリーズフォークの各ポイントへのアクセスは容易だ。それぞれのポイントごとにハイウェイからの明確なトレイルがあるし、駐車場もある。お立ち台のパーキングに車を止めれば歩いてすぐに釣りができるし、トイレまである。釣り人に優しい好条件と言えるだろう。
かの”ウッドロード”を除けば・・。

事前に友人から今年のウッドロードは最悪だ、という話は聞いていた。ウッドロードとはハイウェイ20からMesaFalls方面に向かう47号線を右に入ったダートの道。正式にはウッドロード16。この道を抜けてヘンリーズフォークに突き当たると、パインヘブンと呼ばれるポイント。湧き水が豊富で虫の量や魚のサイズなど、どれを取っても超一流、もちろん技術的にも一級の流れだ。このポイントに行くためにはウッドロードを通るのが体力的には一番楽であり、早い。が、車のためにはまさに地獄道であり、過去には車の底を石にぶつけてオイルパンを割った日本人の話も聞いた事があった。

友人は筆者にこう言った。今年はミディアムクラスの四駆を借りたのにも関わらず、一回行っただけでもう嫌になったと。とても2回目行く気にはなれなかったと。ミドルクラスの車でもそうであるのに、コンパクトカーで行く事はお勧めしないと。自殺行為であると。そんな感じだ。今年の筆者のマイカーは「シボレーHHR」まさにコンパクトカー王道の車であるが、それプラス車高低め、兼、車重重めであり、加えてプチカワイかったりする。。これを借りてしまった時、今年はウッドロードは無理か、とか思ったが、やはりそこは釣り人。初日からウッドロードにチャレンジした。

道の状態が良い時は、10分ちょっとで着くのだが、今年ばかりは、たどり着くのに25分も掛かり、途中下車5回を重ね、道路状況を確認しつつ何とか走覇する事が出来た。しかしちょっとでも気を抜くと「ゴゴリリィィィイ~」とか「グキッ」とか、あってはならない音がフロアー下から聞こえてくるのであった。

穴だらけの道を抜けると、誰もいないパインへブンに着いた。
飲みかけのコーヒーを持って川を眺めながら一服し・・

・・・・!!!

なんとライズしてるじゃないの!!しかもバンク際のデカイ奴が!!見える範囲で約3匹!探せばもっとやってるカモ!!

俄然やる気を発揮した筆者はコーヒーを一気飲みし、ウェーダーを滑り込むように履く、ロッドとベストをワシづかみにして、鍵も掛けずに猛ダッシュ。

背後から近づき、じっくり見てみるとあいつもこいつもトロフィーサイズ。ライズもそこそこ頻繁にしている。
ハッチ
こいつぁもらった。イタダキだ。川の神様ありがとう。と感謝しつつ、ナニナニえ~とハッチはトライコにキャリベイティス、ベイティス、お、ちっこいPMD、あっ!マホガニーもいるよ。あぁ・・全部(流れてる)か・・。

こんな時にはフライどうこうよりタイミング命。テキトウにベイティススピナー#20をティペットに付け、もう一度じっくり距離をつめた。
射程に入ったらおもむろに一投。足りない距離分、リールからラインを引き出し一回のフォルスキャストでレーンに放り込む。スコっとレーンに乗っかったフライを見て「おおっ!スゲぇ(俺)!ゼッコーチョー!」と自画自賛すると同時に、レインボーは今までと全く変わらないフォームでフライを咥え・・バヒュっと音がするほどの早合わせで見事フライを引っこ抜いた筆者は「何だよ俺、何やってんだよ早すぎだよヘボいぜちっくしょ~」と愚痴を
こぼしつつライズの復活を待った。

2分もしないうちにライズは復活。気を取り直してもう一度。
「カポっ(魚がフライを食べる音)」・・・・・・・・・・・・ゆっくりロッドを立て・・あれっ!?!?また乗らねぇ~よ!!!・・不思議だ。。。

この時点でビミョ~にいやな予感はし始めるのだが、その予感は見事的中し、同じ魚でなんと4回もミスっちまった。
他の魚を探すと、朝いた場所にみんな定位しているようだった。川には筆者一人きり。完全貸しきりの最高の状態。ハッチは激しくは無いがダラダラと続いている。レインボーはライズをやめる気配さえ見せず、狙いたい放題。しかし、フックにだけはかからない・・。10回目まではカウントしていたが、それ以上は虚しくなるだけだった。
夕焼けのヘンリーズフォーク

Day5
初日からコテンパンのヘコヘコにやっつけられたハラペコの筆者は、空腹に耐え切れず、相当ヘコミ気味で川から上がった。時間はもう4時。朝9時半から6時間以上釣っていた事になる。
その日のイブニングは何も起こらずに終了。それもそうだ。6時間もの間、虫たちはハッチし続けたのだから。

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Day6

rr
朝8時半。現地の友人2人とミリオネアポイントに入る。メールボックスと呼ばれるハイウェイ脇の駐車場から1.6キロほどの距離を歩くと、下流に「ミリオネア」上流に「ボーンフィッシュフラット」が見える木製の橋に出る。ランチ内では唯一の”荒瀬”になっていて小魚から20ihch級の大物まで、多くの魚達がストックされているようだ。

あたりを見回すと既にトライコのハッチが始まっているようで、小~中サイズの魚が頻繁にライズを繰り返している。友人2人はそこで釣ることにしたようだ。十分ライズはしているのだが、これといった大型が見あたらないので単独、下流に歩きながらライズを探す。

橋からさらに1.6Kmほどで島の点在するミリオネアに着いた。そこまで全くライズは無く、ややあきらめギミの足取りで毎年恒例のポイントに向かう。そこは緩やかに右方向にカーブを描いていた流れが一気に左に方向を変える、変化に富んだ一級の場所。ほとんど流れが無いように見えるが、流れる虫を見ていると、ごく浅い水深の中の藻が複雑なトラックを形成しているのが良く分かる。

毎年ここの大型は、必ずと言っていいほど同じ場所に入っている。そんな場所は決まってフライを流し難く、キャストする事自体が困難な場合が多い。
数分後に発見したライズの主は、ご多分に漏れずそんな場所でライズをしていた。

ミリオネアポイント
島に挟まれた幅10mほどの流れの中で、バンク寄り1mの位置。ライズににじり寄ると、魚との距離が詰まるのがやけに早い事に気付いた。よくよく見てみるとライズの位置は全く定まっていない。右へ行ったり左へ行ったり。常に上流に向かいながら移動していた。そのうち上流で待ち構え、興奮ではぁはぁ言ってる筆者を追い越し、さらに上流へ。5mほど行き過ぎるとライズをやめた。
しばらくすると下流20mでライズを始め、また上流に向かって来ているようだ。

川に立ちこめば即スプーク(魚がおびえて逃げる事)必死の神経質な奴であろうことは分かりきっている。
ゆっくりライズをする魚に合わせるのは実にもどかしいが、他にやりようが無いので上がってきて射程に入ったところで狙い撃ちする事にした。

ライズの頻度はまあまあ。極小のトライコを食ってるのは間違いが無いように思えた。他にもキャリベイティスや極まれにマホガニーが流れてきたりもするのだが、そこは一応マッチングザハッチってことで迷わずトライコスピナ-(メス)をティペットに結ぶ。
川に足を突っ込んでバンクに座って魚を待つ。20m下流に見えていたライズは4回ほどのライズを数える内に射程距離に入ってくる。タイミングを計ってキャストを試みるも考えていたレーンの40cmほど向こう岸でライズ。「あっ・・ちきしょ。。」さっさとラインをピックアップして打ち返したいが、流れが遅いのに加え魚の動きが読み難い事もあって
完全にラインがレーンから外れるまで動けない。ラインをピックアップした頃には目の前3mでライズ。。フォルスキャスト無しでフィーディングレーンに乗せた(つもり・・)が、なにも起こらず。。
こうなると今のキャストでスプークしたのか、フライがあってないのか、ドリフトがしょぼいのか、何がなんだか分からなくなってくる。が、魚はちゃんと10m上流でライズした後、ぐるりと向きを変えてまた下流へ。

釣る前までは釣れる気マンマンで自信過剰だったが、一度そっぽ向かれると果てし無くムズカシイ魚に思えてまるで釣れる気がしない。が、まだフライ選択の余地も残されてる事だし、こーゆー時はマホガニーでしょ!震える指先でマホガニーをティペットに結ぶと、先ほどまでの自信の無さは何処へやら。俄然釣れる気がして来た。

「いよっしゃ~、このやろ~見とけよ~。早よ上がって来い。」
上流から見ているとバンク際中心に右に1回左に2回。今度は右かと思えばまた左・・・。超念動力を発揮した筆者はヤマカンキャストでフライを投じる。ポッカリ浮いたマホガニー#20がやけに静かに流れて行くと、一瞬フライごと水面が持ち上がり大きく揺れながら流れ下った。

見事にレフューズ。完全に見破られてる。しかも僕を迂回するようなライズのコースを取るようになった。全てを魚に見透かされてるような心境になる。一気に手強くなったライズをぼーっと見ているとさらに下流から同じように上流に向けてライズを始めた別の魚を発見したが、1キャストしただけで先ほどの魚と同じ行動をとるようになった。。

「まじでこいつら魚同士で話し合ってんじゃないか?」とかブツブツ言いながら一度も針に出ることなくライズ終了。
「ミリオネアのあんちくしょう」ことこの2匹のレインボーはこの後、連日筆者をガックリぐったりさせるのだった。。ミリオネアポイント遠景

Day7
チキチョ~!!!だめだダメだ駄目だ!昨日の2匹が忘れられねぇ!!
2匹でタッグを組んでるミリオネあのあん畜生が忘れられねぇ!待っとけよ!!!

朝起きていそいそ支度をし、太陽が高く上がった頃、メールボックスからの道を歩き出す。しばらくして着いた木製の橋の上で一応周りを見渡すも、まだ何も始まっていないようだ。

川を見ながらバンク沿いに、あわよくば昨日の2匹以外のタナボタライズを期待しながらゆっくり歩く。期待とは裏腹になーんにもなく結局昨日のポイントに到着。

「おいおいマジで何にもねぇなぁったく昨日の2匹もこの調子じゃやってるわけね・・・・ってやってるよ!!・・・

まだまだ散発ではあるが、間違いなく昨日の2匹だ。
体勢を低くし、流から離れるように回り込み、ライズのUターンする(で、あろう・・)上流のポイントに近づいた。(今思えばこのアプローチ自体が間違っているのカモ。。)

昨日の経験から分かることはこうだ。

ライズは上流側に移動しつつ平均して5mに一度の頻度。流れは・・激遅。
こちらのバンク際30cmから向こうのバンク際30cmまで、如何様にも周回コースを変える。。特に警戒しだすと釣り人を避けて向こうへ行っちゃう。。
ライズを観察している時にも左右に動き回るので、そもそも簡単にフィーディングレーンは予想出来ない。
(この位置からは)ウェーディング不能。
魚、デカし。

よってこのときはバンク際に座り込み、且つ、猫背ぎみの体勢で、ややダウンクロス~クロスの位置のみでライズ直撃攻撃の作戦をとる。

そして今日は決してウェーデングはしまい、と心に決めた。名付けて「座り込みのデイブメソッド」。
ちなみに昨日の敗北の後、地団駄踏んでしこたま悔しがった後、座り込んでのキャスティングを実地練習しまくり予習済み!さぁ!かかって・・コイ!!

このライズはキャリベイティス(#14)に間違い無し。トライコのスピナ-がかなり目に付くが、トライコ(#20)なんて食ってるわけなし。でももしかしたらマホガニー(#16)が流れてたりして・・。
でもでも昨日はトライコは無視。マホガニーはレフューズされたのでやっぱりキャリベイティスだよね。うんうん。そうそう。。。
「間違いなし」とは言いながらも、微妙に迷いつつある自分に論理的に言い聞かせ、やっぱりキャリベイティスをティペットの先に繋いだ。

昨日の予習通りのポジションに陣取り、下流20mほどから始まるライズをじっくり待つ。
さしずめ遠距離恋愛の恋人が乗る列車をホームで待つ乙女。はたまた、アパートの前で張り込む刑事(デカ)。いやいや、奥さんの里帰りを控えた夫。いや・・・とにかく待ち遠しい。あぁ、早く来ないかな。早く私の目の前にやっておいで~ん!!

3回のライズの後、射程距離に入った事を確認した。次のライズで位置確認の後、一発でレーンに入らなかったらゲームオーバー。どうか投げやすい位置でライズしますように。。

星に願いが叶ったのか次のライズはやや下流、ほぼクロスの位置で起こった。その距離おおよそバンクから2m。緊張しながらもラインを振り出しフォルスキャスト一回。放ったフライはふわりとレーンに乗ったように見えるが、どうか。。

2秒ほどのわずかの時間が、期待と興奮でとても長く感じる。・・・駄目か・と思った瞬間

「ガボッ」

波一つ無かった水面が割れ、この時期にしては大きなフライを一飲みにした。血の気が引くような感覚の中、反射的にストライクに行く神経を押さえ込むように堪える。

「食っ・・・・・・・・・・・・・・・・・た。」
のタイミングでラインにテンションを掛ける・・・

が、何の抵抗も無く・・・・・・スッコ抜けた・・・。

うぅ・・悲しい・・底抜けに悲しい。とほほ。。またかヨ。。
ライズ、見事、沈黙。。私、またまた、撃沈。

だがしかしミリオネア2日目にして収穫アリ!今日は針に出たもんね~ル~ルルル~。
明日だ!そうさ、オレには明日がある。帰って洗濯でもしてポテチでも食おう。

その日のイブニングはウッドロードに出かけた。が、ライズがあるのは一人のおばちゃんが釣りしてる前後10メートルしかライズしていなかった。もちろんポイントには入れず一日が終わる。ふぅ。・・・明日があるさ・・。

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Day8

明日があると信じていたが、この日は一日パっとしなかった。
日記帳にも大したことが書いていないので、そのまま掲載しよう。

日記

(訳:
全体的にスローな日
朝9:30~ミリオネア
ハッチはごく少なのでさかなもまばら
昼ボーンで一匹見つけ出るものらず
マホガニー#20。せんたくしてヴェッキー、ロネット、ジェフとてきとうにしゃべってせんたくする。
夜7:30~ライズ有り。ハッチごく少でほとんどつりにならず。
ベイティススピナーがいちおうメイン。
よるロエーンのこいのはなしをきく。
ひるねしたのでまだねむくならない。現在11:30

我ながら頭悪そうな文章である。

 

Day9

釣り人はしつこい。まさに粘着質とも形容される釣り根性で今日もいつものミリオネア。
しくこく狙うはあの2匹。こうなりゃ意地だとばかりに連日通った。

ここ数日と比べてこの日は何だか暖かく感じた。悪い予感がするがいつもと同じくポイントにて張り込んでいると、やっぱり今日も(ライズが)始まった。釣り始めてみると、どこか様子が違う。魚はいつもと同じなのだが、10時にて既に風が吹き始めている。11時には完全に突風状態。。キャスティングもままならないまま、いつしかライズもピークを迎えないまま終了。

欲求不満の不完全燃焼。

やーめたと言い残し、とぼとぼ川沿いを帰る。重い。足取りは実に重いのに加えて、凄まじい突風。。。クルクル方向を変えるように吹いていた風は、やがて僕のいるバンク側から対岸方向に向かって吹く方向を固定したようだった。

来た道の橋を渡り終える時、流れに目をやると無数の白い点が絶え間なく流れている事に気付いた。
「ん?泡か・・」
ヘンリーズフォークでは風が強く吹くと水中の有機物か、界面活性剤か分からないが、風によってかき混ぜられた水流で風下側に泡状のスカムラインが形成される。
時にはセレブの泡風呂並みのシャボンになって転がって行く事もあるくらいだ。
今日も風が強いのでその類のものかとぼんやり眺めてみると・・

「・・!!??」

「泡からいっぱい羽が生えてる。。。」

「こ・・こりは・・。ここここりゃ全部ベイティスかよっ!!!??」

歩いて来たバンク側では一匹の虫も見られ無かったが、風下側のバンクにはハッチしたベイティスが突風によって集められ流れ下り、吹き溜まっている。バンク際には1メートルほどのベイティスの「帯」が出来ていた。。

あぁ、オレはなんてオバカなんだ。ミリオネアでがっくりこいてる場合じゃなかったんだ。
昔からレネェが「ベイティスは悪天候が好きなんだぜぇ~ナルゥ~(現地の筆者の呼び名)」なんて言ってたな。。分かってるつもりが目先しか見えてなかった。反省。。。

しばし橋の上から大量のベイティスのハッチを眺め、大量の羽化の供給元であろう、上流のポイントを双眼鏡で覗く。そこには、あの「ボーンフィッシュフラット」が釣り人が誰も居ないことを教えるようにキラキラ光って見えた。

ミリオネアからここに来るまで、一人として釣り人を見ていない。いつもより早く吹き始めた風に辟易して早めに川から上がってしまったのだろう。そもそもここ2日間、あまり状態が良くなかった事も手伝って、釣り人自体が少ないようだ。
「貸切か・・・?」期待に胸を膨らませ、バンクをチェックしながらボーンフィッシュフラットに向かう。

上流に向かうにつれ、バンクに吹き寄せられているベイティスの密度は低くなる。右に大きく曲がる流れの形状があたかも漏斗のような役割をしながらベイティスを集め、橋の上流が密度のピークになるようだ。

ボーンフィッシュフラットに着くと、そこは思ったとおりの貸しきり状態。上流、下流とも数キロに及ぶ範囲、この時間この場所にいるのは自分ひとり。後はライズを見つけるだけだったのだが、期待に反してライズしている大型は思ったよりいない。
最近あまり見なかったベイティスのまとまったハッチだけに期待が膨らんだのだけど、その期待もなんだか萎み気味の意気消沈。バンクに座ってあたりを見回し、見に行くのが面倒な300mほど上流からは双眼鏡を使ってウォッチング。

風にもまれる水面は小波立ち、はっきりとは様子がわからないが、一箇所だけ波の出方が違っている所があった。もしやと思い、100mほど距離を詰めてまた観察。
メールボックスから5km近く歩いてやっと一匹だけだが、大型レインボーのライズを発見した。

ライズの場所は川の中央よりこちら側だが、100m以上の川幅を考えると30mはストーキングしつつにじり寄らなければならない。バンクからみると完全に逆風に加え突風。。
いつこのハッチが終わるか分からないが、ライズは明らかにピークを迎えている。迷っている暇は無い。早速、川に入り魚に対してダウンクロスの位置ににじり寄った。

魚までおよそ13m。思いのほか神経質なようで、これ以上は近づかせてくれないようだ。
この風の中でピンポイントにキャストする腕がないので、手前にキャストした後、メンディング一発、ラインをせこせこフリップしつつフィーディングレーンに送り込む。

ラインを見せないように注意しつつ数投すると、フライからティペットの角度までいい形になったキャストが出来た。

フライの位置はライズから2mほど上流、送る、送る・・。思ったようなレーンをフライがトレースするのを見ながらライズを確認する。右、右、左、左、とライズを繰り返しながらフライとライズはどんどん近づいて行く。

タイミングもぴったりだ・・・。そら、食え、食え。。
フライの直前の本物に2度ライズした後、間髪いれずにフライも飲み込んだ。

少し間を置いてロッドを立てると、今度は間違いなくフッキング。

・・・??

動かない。全く動かないのだ。10m以上先で水中に突き刺さったラインはロッドティップまで一直線に張られて、常に吹きつづけている突風でビリビリと風を切る音まで聞こえた。

「さっきフライに食いついた様に見えたのは勘違いだったのか?
も、もしかして、、水面まで伸び放題の水草に引っ掛かってるだけ~??」
そう思えて2度ほどロッドをアオると、ゴクンゴクンと振動を伝えながらゆっくり右に動き出した。

おおっ!!やややはり、、掛かってる。。しかも、魚、でかし!

針に掛かった違和感にやっと気付いた超鈍感なレインボーは一転、狂ったように走り出した。

ラインのテンションと反対方向である対岸に一気に方向転換したレインボーの加速は向かい風の中、2秒ほどで最高スピードで達する。クリック音をオフにしたハーディーのリールから聞こえる風切り音が、疾走のスピードがどれほどのものかを教えてくれた。

スピードに乗ったレインボーはラインを引きずったまま、あっと言う間に視界から離れていく。とにかく走る走る走るあ~わわわわ~ぁあ~ぉお~おーー!!!

大型と言えどもほとんどの魚はバッキングに至る前に、ラインのプレッシャーに耐え切れずにランをやめるものだ。一部の魚を除いて。。

疾走スピードが気持ち弱まったところでリールをチラッと見るとバッキングまであとちょっと。や、やべー。。こいつはマズイかも。。と思った瞬間、一気にリールの回転が上がった。

見るからに重そうな魚体が水面を割って空中に踊り出た直後、今までテンションを保っていたフライラインは風に巻き上げられながら「の」の字を描くように空中を舞った。

ラインブレイクかフックが外れたのか、、、呆然とするがラインを確認するとティペットから先が無くなっていた。

・・・。。。(またかよ。。)

やっと掴みかけた大チャンス。そしていつものように逃げていった。。。

だがしかし!クジケテばかりはいられない。思い起こせばこれが初フック成功。毎日着実に成功に近づいている!ような、気がする!そうだ!オレには明日があるさ。
とりあえず車に帰って温まったペプシでも飲もう。そして読書でもしてまったりするのだ。これぞ究極のノーストレス生活!だが・・・。

非常にくやしい・・。

人間日々精進である。苦節ここのところ6日間、垂らした糸に魚はかからず(正確には一度だけ掛かったのだが。。)、苦労して巻いたしょぼいフライたちも、本来の「魚を掛ける」といった目的をも忘れ、9月の風に吹かれて竿先のお飾り状態。普通の神経であれば、このままではマズイ!なんとかしなくては!との思いに駆られ、ガイドを雇うなりなんなり、何らかの対策を立てるものだが(実際トラウトハンターの連中にガイドを雇えとアドバイスされてしまった。とほほ。。)、俺は違う。過去の経験から考察すれば、ボウズ記録更新までまだ1日ある。そうだ、俺は過去にヘンリーズフォーク釣れない連続記録7日を経験したレコードホルダーだ。言ってもまだ6日じゃないか。後1日あれば必ず何かが起こる!そう、予感した。

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Day10

一日、何も起こらず、、、終了。。

釣れないタイ記録(7日間)達成。。

以上。

釣りは水もの。自然のものだ。いつも何かが起こるとは限らない。今日は何も起こらなかっただけだ。そして、何も釣れずに一週間が経っただけの事だ。だがしかし、これだけは言える。

一生釣れない気さえする。

こういう日は、バーに行っていつもより一杯多めにジントニックを飲もう。
タイ記録達成をみんなに自慢した日。

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Day11

気分が変われば全てが変わる。そんなわけで、久々にランチエリアに入ることにする。快晴すぎて良いハッチはあまり期待出来ないが、パーキングロットに車を止めてトレイルに沿って歩き出す。過去に何回往復したか分からないほどの馴染みのトレイルが、最高の気分転換のアシストをしてくれるようだった。

パーキングロットから1キロほど下流に歩くと流れが大きく右にカーブする「ビックベンド」と呼ばれるポイントに差し掛かる。
大型のレインボーが好んで定位する名ポイントで、生まれて初めて21インチのレインボーが釣れちゃった!という、思い出深いポイントでもある。
ビックベンドまで来る間に、大型のライズは一つも見ていないが、例によってトライコの群舞が始まっており、川下から川上に向かって薄いレースのカーテンを引くように交尾のダンスをしている。

ここ数日のライズを見ていると、あれだけおびただしい数のトライコのスピナーに捕食対象を絞っているレインボーは全くと言って良いほど見ていない。マスキングハッチと呼ぶには分かり易すぎるが、この時期の大好物であろうキャリベイティスやマホガニーを好んで捕食しているレインボーばかりが目に付いていた。
10時30分を回った頃に、ビックベンドにて一尾だけ、大型のレインボーがライズしているのを見つける。ふと川を見ると、さっきまで川沿いに群舞していたトライコたちがその一生を終え、川一面を覆いつくすように流下していた。

ライズの位置はバンクから4mほどだろうか。その辺りを中心にいつものごとく動き回っている。微妙な位置だが、バンクを背にダウンクロスの位置からアプローチを試みるも、川に一歩入った時点でライズの雰囲気が変わった。
こいつもまた神経質なやつだなぁ~。。
まだまだ安全圏に感じるポジションで既に警戒モード。一応、ライズはしてくれているようだ。マホガニーをティペットの先につないでキャストのタイミングを計る。
くわっ!(ここだっ!というタイミングを得た音)
ひゅっ(フライを放ってバックキャストに入った音)
かさかさっ(バンクの草を釣った音。。)

流石オレ。この期に及んでバンク釣っちまった。。

あっ!ちくしょ、、えい、えい、え~い、エイっ!!
ライズを目の前に、やたら丈夫なバンクの草との綱引きに破れ、ワンキャストさえ叶わずフライをロスト。
この大失敗により、平常心を失い、キャストするもレヒューズされ、もう一度キャリベイティスにフライチェンジをした後のワンキャストで、すっ飛ぶように逃げて行った。絵に描いたようなスプークに、、ちょっと笑う。

我ながら、、、下手だ!どーりで釣れないワケだ。

この日の午後は久しぶりにあったKちゃんとライズを待つが、何も起こらなかった。
釣れない新記録樹立(8日)。

Day12

ここ数日間、ずっと暑い。9月でこんな暑さの日は大した釣りが出来ないことが多い。この日もドラマティックな展開は無かったので例によって日記のスキャン画像をお楽しみ頂こう。
日記2
訳)13日(水曜)あつい
今日も暑い。朝10:00~ミリオネア。
例の奴らは上がって来やしない。
?流で一匹発見するもクルクル
まわる風に上手くレーンに入らずに
終わる。12:00~突風。
結局、夜まで突風で終わる。
やっぱり朝はキャりベイティス一本で
いいかも。明日は朝からウッドロードだ。

訳了)

またまた原文は頭悪い感じであるが、特にこういった「ホトンド一日突風で終わった日」などは、あまりのやるせなさに心神喪失状態に陥り、「おれってアメリカまで来て、何してんだろう?風に吹かれに来たんだっけ??」みたいな、たそがれ人真っ青な心境になり、一日の終わりに書く日記も力無く、なにやらどーでもいい雰囲気に満ち満ちて来るのだ。

数日前のベイティスのヘビーハッチ以来、これと言った刺激的なハッチにお目にかかっていない。もちろんそれはこの暑さのが原因であろう事は分かりきっている。
もっと変化が必要だった。気候的な変化が。

そんな事を知ってか知らずか、キャンプ場のオーナージェフがこう言った。
「明日は寒くなるから、テントの中で凍らないように気をつけろよ。」と。

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Day13

朝テントから出ると久々にどんより曇っていて寒い。期待満々でウッドロードの地獄道を走破し、パインへブンに着くが、、いきなりの風でフラットな水面どころか、さざ波立ってなーんにも見えない。
しばし待ってみるも、全く止む気配が無いので早々に撤退してランチエリアに向かった。

右手にコーヒー、左手に双眼鏡を持ち、お立ち台の手摺に腰掛けて辺りを見回すも、誰一人として釣り人の姿が見えなかった。天気も微妙に悪いし、なんだか寂しいような気もするが、一式着込んでテクテク出発。
冷たい風は吹いているが、水面を乱すほどでもない。相変わらず空は鉛色に染まり薄暗く、厚い雲の切れ間から時折差し込む光が川面を照らしている。
12:00を過ぎた頃、ついさっきまで何も無かった水面に無数の白い点が見える。流下の量は増減を繰り返しながら足元を横切り、そのピークごとに密度を増し続けている。

この日を待っていたかのように、川中のベイティスがハッチしていた。あっという間に見渡す限りベイティスだらけ。風下になる対岸のバンク目指して川を横切ると、そこにはより一層の密度を増して流下しているベイティスの帯が。まさに絨毯。
この状況で大型がライズしないわけが無かった。思ったとおりの場所で、労せずして1つ目のライズを見つける。

遠くからは一直線に見えていたバンク際も、水流でえぐれているところ、程良い大きさのログでカバーされているところ等など、注意して見るとポイントらしいものが見つからないような、大きなスプリングクリークにも格好のポイントが点在している。
そしてそんな場所には得てしてハッチした虫たちが重なるようにひしめき合っている。最初に見つけたこのライズも、水面に突き出た流木の脇、数センチのところでベイティスの絨毯を揺らしながらライズを繰り返していた。

大きい。ポイントだけ見ればおよそ想像がつかないサイズのレインボーが定位していた。流木はバンクから50cmにも満たない場所で、バンクと流木の間の、本当に小さなスポットに入ってライズをしている。ベィティスを捕食している事は疑いようが無い。ティペットの先に#20のベイティスを結んでフィーディングレーンを確認する。
無数の白い点となって流れるベイティスのおかげで、周辺の入り組んだ流れも丸見えだ。
確かに、レインボーの定位している場所は、流木の頭で分岐された流れの筋が対岸のバンクにある反転流の流れとぴったり合流するような位置で、反転流の中に留まっているベイティスを引っ張り出すように鼻先に向かって流れてくる、魚にとっては「おあつらえ向き」な場所だ。

バンクの草と流木に引っ掛けたらおしまい。徐々に荒れ始めた風に気を使いながら背後から何度かキャストすること数投。ゾクっとするほどぴったりのレーンにフライが乗った。
時間にすれば2秒ほどだろうか。アドレナリンのおかげでこんなに短い時間もこんな事を考えられる。
「いぃ、、よっしゃっ、、乗った、、、、、お!タイミングもばっちり、、、、そら食え食え、、食っっ、、、、、、、、、た!

………抜け、、た。
そう、賢明な皆様ならお分かりのように、、また、ミスった。

し、しかしっ、、、いいもんいいも~ん。だって今日は特別な日なのだ。釣り人達はこの風で見渡す限り誰もいない、ランチ貸切、ライズは独占。加えてこのヘビーハッチ。あぁ、今日釣りに来ていない、またはモーテルでヌクヌクしている人達ゴメンナサイ。そして有難う。君達の分まで楽しませて頂きます。
まだまだ上流にも下流にもバンクは続くよどこまでも。このベイティス絨毯がひたすら続いているこの光景を見ているだけで、まだ見ぬライズが永遠続いているのは火を見るよりも明らか!
こんな釣れない奴を相手にするよりも、こういうときは数打ちゃ釣れる!で、あろう!

そそくさと岸に上がり、おもむろに下流に向かって双眼鏡を向ける。・・・!!っ
い。。いた。また、いた。がむしゃらにライズしてるデカイのがバンクにへばり付いてる。。凄い凄すぎるぅ~、まさに列になってライズしているとはこの事!なんという幸せ!生きてて良かった!!腰を低くしてバンクから離れ、転がるようにライズ付近に近づく。途中、牛のウンコに足をとられコケそうになりながらもポジションに着き、ワナワナしながら川に入る。

数分後、またしてもミスった筆者は撤退の際にバンクで2度ほど滑りながら岸に上がり、取り憑かれたように下流に向かう。
ビッグベンドまで来ると、そこには2本の大きなログが横たわったフライフィッシャー要チェックポイントがある。10メートルほど手前で立ち止まり、ログ周辺の流れをじっと観察すると。。い、いた!また、でかいのが一本目のログの奥に定位している。バンクに隠れるように移動した後、背後から近づこうとしたその時、なんと!手前の2本目のログの後方にもライズする大型を発見。ちょうど2本目のログが棚田のようになり、上流と下流をへだてている。
すぐ目の前にグっとくるライズが2つもっ!くぅ~ぅう!幸せ!!
どーちらーにしーよーおかーなっとか考える前に手前の奴に決定。静かに釣って両方ともチャレンジするのだぁ~っはっはぁ~っィイッハァ~!!!

さて、勝手に盛り上がって釣り始めたのは良かったが、いざ釣ろうとしたところ、これが、異常に難しい。。とにかく本物が多いのはもちろんだが、ベイティスを食っている割には何かを選んで食っているような。。この時期有力なマホガ二ーから始まって、キャリベイティス、アント、カディス、変なフライその他もろもろ。とにかく何を投げようが、食わない。おまけに突風が吹いてきて釣り辛い事この上無し。しかも、最終的に魚までの距離3m。ロッドの先で頭が叩ける位置まで寄ってみたが、まだライズしていた。釣られない自信まんまんのその振る舞いに、自尊心を粉々にされ、ややキレ気味でトップガイドからティペットを60cmほど出し、激短チョウチン釣り作戦によりライズを直撃したところ、魚雷のように逃げていった。。あまりの派手なスプークに、ちょっとびびる。。

ふぅ・・・、これで、良かったのだ。時間はもう4時。ハッチ終了まで後一時間は無いだろう。残された時間は、そう。棚田の一番上段のいやらしーい場所で、せっせとライズするあいつと過ごすのだ!

出来るだけ有利な位置を取ろうとライズの位置、流れを読むが、、、、、さっぱり分からない。どこからアプローチしても簡単にドリフト出来そうな場所が見つからなかった。
川に向かって、斜めに横切るように横たわるログの真後ろにヘバリ付いたレインボーは、ログに沿って移動しながらライズを繰り返している。一旦ログを乗り越すようにした流れは、ログの背後に小さな落ち込みを形成している。ログに沿って流れる落ち込み沿いの流れとログから扇状に離れるような流れが入り組んだ、一番いて欲しくない場所にレインボーは入っていた。

気付くと辺りにはみぞれが舞い始めている。ライズに熱狂していて気が付かなかったが、指先はすっかりかじかんで、底冷えするような寒さだ。それでもベィティスはハッチし続けているし、ライズはまだ続いていたが、こんな気温の中、数時間も川の中でウェーディングを続けているおかげで、すっかり体力も奪われて集中力も途切れ途切れになる。
このログの脇でライズするレインボーに向かって何度キャストを繰り返しただろう。疲れのせいか、到底手の届かない亡霊にでもキャストをしているようだった。ぶ厚い雲の下で鈍く光る水面と、落ちては消えるみぞれ、下流から上流へと風に運ばれるベイティスの中で、ライズの終わりが近づいているのを感じていた。

 

どれだけの時間、目の前のライズに向かってキャストを繰り返したか。 5時をまわる頃には川はいつも通りの落ち着きを取り戻したように静まり返っていた。

お、終わった。。
またしても完敗。野生のレインボーとはこんな魚なのか。 生まれた時からフライフィッシングのターゲットとして、一日たりとも休む間もなく追い続けられた魚のとる行動とはこういうものなんだ。
魚にとって有利に働くような場所、捕食タイミングや、クルージングコース。どれをとっても考え抜かれたようなライズ。自然界の複雑なヨレが、何層にも織り重なるようにしてレインボーを守っているような環境。付け入るスキが見当たらなかった。
これだけチャンスに恵まれながら、全く釣れない自分にもびっくりだが、あんまりにも面白かったので夜にはBARに出向き、いつもの連中にいつものように釣れなかった事を報告する。

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Day14

朝、テントから這い出ると曇っていて今にも降り出しそうな天気。 くぅうぅ~!!今日も来たぜ~ベィティスDayだぜぇ~いくぜいくぜいくぜ~!! 朝飯も程々に、期待満々の筆者はすっ飛んでウッドロードに向かう。 2日連続でベィティスの良いハッチが続いているこの状況では、期待するなという方が無理な状況だ。このまま一日曇ってくれればまた今日も最高のフライフィッシングを堪能出来るのだから。

これだけウッドロードに通っていると、よくしたものであの地獄道にも順応し、お姉ちゃん仕様であるシボレーHHRでもお腹をこすらずにパインヘブンまで到着出来るようになった。釣りは上手くならないが、ウッドロードドライビングだけは、世界屈指の腕前になったと言えよう。

滑るようにパインヘブンの駐車場に到着し、自分の運転に酔いつつ外を見ると、何やら草がゆらゆらと揺れている。そのうちゆらゆらからザワザワになりバサバサ~!!っとなったと思ったら、ポツポツ雨が降って来た。。まさかとは思ったが、朝からの風と雨だ。
ここウッドロードでは風に加え雨が降り出したら、本来の水面のフラットさが半端ではないが故、風の影響をモロに受けてしまう釣り場であり、風の時は決して来てはならない世界第二位の釣り場として有名である(筆者独自認定)。

車の中で、一人、ポテチ片手に、コーラを飲む。冷たい風に吹かれた雨水は、フロントウィンドウをシトシト濡らしていた。前後ともに他の車は見当たらず、なにやら寂しい。
30分もそんなふうに雨が止むのを待っていたが、暇なのでもうちょっと下流に移動し、またポテチを頬張っていたのだが結局風は吹きやまず撤退を決断し、ウェストイエローストーンにでも出向いて気分転換することにした。

 

さて、ウエストイエローでお買い物から帰れば時既に3時を回っている。雨も上がって空はどんより、風も吹いていて寒いのだが完全なベイティス天気。
早速お立ち台のパーキングから川を眺めると、ベイティスがちらほらとハッチを始めている。
こりゃー今から始まるぞ、と意気込んで一式着込んで即出発。
川を渡りながらハッチを観察していると、昨日と同じパターンのハッチだ。今から必ず一盛り上がり来るぞ。

バンク際を注意して見ながら昨日の連中の待つログ方向へ歩みを進める。まだ、始まったばかりなのか、ベイティスは流れているのだけど、それに釣られて上がって来ている大型のライズは見られない。結局昨日のログまで来てしまった。
しようが無いので、遥か遠くから回り込んでログの下流に陣取り、ライズを待つ事にしよう。昨日はめちゃめちゃ寒かったから、今日は一枚多めに着込んだぜ!これで寒いのなんか怖くないもんっ!

バンクに沿って走るトレイルから水面までは1.5m程の高低差がある。このお陰でバンクの斜面に座り込む事によって魚から見ると釣り人とバンクの境界があやふやになるようで、釣り人の存在を魚から悟られる事はほとんどない。
こんな日のライズ待ちはこのような場所に入って水面とにらめっこするに限るのだ。いざライズが始まったらタイミングを計って何時でも川に入る事が出来る。
しかも狙うは下流から見て一本目のログの後ろでライズ「するであろう」昨日のあんちくしょうだ。魚も、ライズをする位置も決め打ちのライズ待ち。ストーキングするのが面倒なので、出来るだけライズポイントに近づいた、まさにギリギリの距離感を保ったライズ待ちと言えよう。

そう、ここではライズ待ちから勝負は始まっているのだ!!そして、その眼差しはログ周辺1mに釘付け、さながら上空を舞うオスプレーがごとく。静かに、そして獲物に襲いかかる猛禽類のごとき躍動感を伴うライズ待ちだが、それとは逆に緊張感も無く、性懲りも無くポテチを食べていると、

「コポッ」

む!むむっ!!これは!ライズの音!しかしログの周りを見てはいたが、ライズらしき波紋は何処にも見えないぞ。そうか、目を離さずに水面を注視していたつもりだが、一瞬袋のバラバラになったポテチに目を奪われていたに違いない。もぅばか、オレ!しっかりしろ!!

怠惰にポテチを頬張る自分に叱咤激励した後、今度こそ見逃すものかとログ周辺を見やる。

「コポッ」

な、なぬぅうう!!またしても見えない。。しかし何処かでやっている事は間違い無い。そしてその音はやたら臨場感伴う音で筆者の鼓膜に訴えかけてくるのだ。
どこだ、、どこでやってるんだ~。。
写真レンズで言えば焦点距離を200mm付近から16mmほどの画角に脳内レンズ交換をした超広角の視野に入り込んで来たものに我が目を疑った。
、、、、あぉうっ!!!!!!!!!!!!

ライズ 至近距離(これは首から下げていたコニカヘキサーで撮った写真。ノーファインダーでの撮影。順広角35mmにしてこの距離感である。偏光フィルターは付いていないので、魚体は写りませんでした。とほほ)

あ、あの~、すぐ目の前でやっちゃってるんですけど。。
おまけに魚の姿まで丸見えなんですけど。
さかな、おおきいんですけど。。

なななんと、その距離約1.5m。こ、これじゃあ、、

身動きがとれねぇ~。。

俺のストーキング兼ライズ待ちが完璧すぎたのか、それともお魚が完璧すぎる程のおとぼけさんなのか、はたまた忍野なみのアバズレ鱒なのか?い、いや、そんなはずは無い。ここはかの地ヘンリーズフォーク。人になれたアバズレ鱒などいるはずも無い。人の気配に気付いた時にはロケットのように逃げて行くはずだ。どーしよー、、釣りたいけど釣れない、知床の熊がごとく飛びかかれば捕まえる事さえ出来そうな距離だがフライフィッシング的には、やはり近すぎるのだ。

こ、困ったこまったコマッタ。。とにかくワンキャストさえ叶えば釣れそうな気もする。しかしキャストのモーションに入ったが最後、すっ飛んで逃げてしまうに違いない。
こんな時は、コンナトキハ~。。。。。
あぐらをかいてバンクに座ったまま動かず、ひたすらキャストする方法を考える。さがならバンク際の一休さん。う~んう~んポクポクポク、、、、ち~ん!!
!!!!。。。ハッチャケタ!!

下流に向けていたロッドティップを1分かけて上流に向けた後、ガイドに掛かっているフライをなんとか左手に持ち、ケンタウロスさながらフライを思いっきり引っ張った。
そう、あの有名なボーアンドアローキャスト!これだ!ロッドを一切振る事無くキャストする方法は世界広しと言えどもこれしかない!

端から見れば、100mを超える川幅の河川にむかってボーアンドアローとは、巨大なゾウを倒すため「みたらし団子」を投げつけるような行為。しかしこの時の筆者は大まじめ!天まで届けと叫んだかどうかは忘れたが、渾身の力を込め、キャスト~!!

ぐいぃ~~ん(フライを引っ張ってロッドをしならせる音)
ふむ、むぅ、、、(狙いを定める音)
ハァッ!!!  (気合いの音)
びよ~ん  (フライが飛翔する音)
フニャ。。。 (フライが手元に戻って来た音)

く、くふぅ。。。失敗。だめだ、だめだだめだ!!ティペットが長過ぎるじゃねーか!!
ティペットを極短にカットし、再度挑戦。
この間も動きは全て亀のような遅さであり、緊張しまくりのアドレナリン分泌しまくりである。

いざ!!  (準備完了の音)
ぐいぃ~~ん(フライを引っ張ってロッドをしならせる音)
ふむ、むぅ、、、(狙いを定める音)
ハァッ!!!  (気合いの音)
びよ~ん  (フライが飛翔する音)
ぴょん!! (フライがフィーディングレーン手前に落ちた音)

ぁあぅ、、もうちょっと遠くへ。。。

繰り返す事数回、ついにお魚の目につきやすいレーンにフライが乗った!!
いいいいいよっしゃ!!行け!そのまま流れろ!!
みるみるフライは流れて行き魚の鼻先に流れ込もうとしている。
レインボーの姿はこちらから丸見え、おまけに表情まで分かるような距離だった。

ぷいっ。(見事にフライを見切る音)

はぅっ。。む、無視かよ。。
この瞬間、今までやって来た、当初は斬新にすら思えたアプローチが急に色あせて見えた。
おれって一体。。。

ハズイ、正直言って恥ずかしい。周りに誰もいなかった事は不幸中の幸いだが、フライフィッシングとは詩的であり絵的に美しくなくてはならないのだ。この美しくフライフィッシング的にパーフェクトなロケーションでコナキジジィ真っ青の猫背で大河川に向かって弓打っちまった。
よーし分かった、もう二度とヘンリーズフォークではボーアンドあろーキャストは試む事は無いだろう。さようなら、ボーアンドアローキャスト。そしてこれからは美しくループを描いてキャストするのだ!それこそ正当派、それこそドライフライフィッシャーである!

しかし、魚がすぐそばにいる限り、身動きが取れない事には変わり無い。どーするか。。とりあえずフライを交換して考えよう。。 一番実績のあるベイティスのスピナーパターンを見事見切られた筆者は、アピール重視のダンパターンにフライチェンジし、そこにいるはずのレインボーにゆっくりと視線を戻すと、、、、!!!

い、いない!!!おれへんがな!!どぎゃんしたこつですか!!

辺りを見回すと、2mほど下がった場所で定位するレインボーを発見する。 よくよく見てみると、定位しているのではなく、徐々にその位置を下げているようだ。まるで後ずさりをするように元のポジションからすでに3m。
流石はかの地、ヘンリーズフォークのお魚だ。一回フライ通しただけで、警戒モードになってしまった。。 こういう時は慌てず騒がず、じっと石になるのみ。今ちょっとでも動けば魚雷のように逃げて行くに違いない。 レインボーの動向をただ見守った。

そして、いなくなった。。。。。 哀れ、オレ。。

っと思ったら遥か下流10mほどの距離で様子を見るようなライズ。 常にフィッシングプレッシャーのかかったヘンリーズフォークなどでは、魚が違和感を感じるとこのような行動をとる事がままある。まさにパターン通りの警戒モード。アップストリームで釣っていたら終わっていた。。
が、しかし幸いにもまだチャンスはある!こんなときは先ほどとは全然違うパターンで攻めるのみ!ダンパターンに変えたくらいじゃダメだ!もっと美味しそうなパターンをば。 そそくさとシナモンアント#14にフライチェンジをし、タイミングなんぞどうでも良い、ライズ地点目掛けて渾身のキャストー!!

思いっきりダウンストリームの送り込みをする。送る送るフリップフリップフリップフリップ~、、
「パクっ」

出た~!!!

「スポっ」

抜けた。

ここまでお読みの皆様には毎度毎度のオチで申し訳ない!しかし、事実をねじ曲げずに書くとするならばこう書くしか無いだろう。

今日も釣れなかった。。。

ま、まずい。。「ヘンリーズフォーク釣れないレコード」を日々更新し、ついに11日も数えてしまった。。 そして、なぜか、釣れない事にも若干慣れ始めて来ている。。
それよりなにより釣れないのに他の川に移動しようとも思わない事が不思議のように感じるかもしれないが、釣り自体は良い。というか、最高に面白い状態である。ただ、釣れないだけ。この状態でどうして他の川に眼が向こうかというものだ。
その夜、自宅(キャンプ場)にて澄んだ天の川を見上げてお星様に願った。

「あしたはつれますよーに。」

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Day15

昨晩ブラッドリーとダイオン夫妻と深夜までA-Barでくっちゃべっていたせいか、起床は9時30分。 この時間に起きるともう日は高く昇ってテント内を暖め始めてくれているのだが、この日は昨日に増して寒い。外に出てみるとテントの表面の夜露はすべて凍っていた。
キャンプ場のジェフ夫妻のところで暖を取る。この様子だとハッチは随分とずれ込むだろうとの予測で、午前中いっぱいはトラウトハンターに行って暖を取り、グラブステークに行って暖を取り、暖房ジプシーと化す。

グラブステークでは同じく暖房ジプシーと化した、ヘンリーズフォークの重鎮デイヴショルツとも再会出来た。 彼は毎年、シーズンを通してティピー(インディアンのテント)に住まい、ヘンリーズフォークを釣り続けるまさに「へんなオヤジ代表」。60歳も過ぎているであろう彼のバイタリティーには脱帽だ。
ブラッドとデイヴと3人でしばらく話した後、正午も過ぎたのでいつものお立ち台に移動。やっぱり川は静まり返り何も始まる様子も無い。
午後にもなるのにしんしんと冷え込んでいて、時折吹いてくる風も刺すように冷たい。空を見上げれば鉛色の雲が一面を覆い、いつもの景色がモノクロ写真のようにも見える。
そのうち雨が振り出したのでキャンプ場に撤退し洗濯と読書にふける。雨は強弱を繰り返しながら午後3時過ぎには雪になった。

一通りの用事を済ませ、川に立ったのは4時過ぎ。天気は徐々に回復して来ている。
こ の天候で川に入っているのは見渡す限り一人も居なかった。この状態で釣りに来ているのは達人か、暇人かのどちらかだ。もちろん後者にあたる僕は出来るだけ 時間をかけて川を渡り、対岸から下流に向けてとぼとぼ歩く。ハッチは思わしくなく、もちろんライズも見当たらない。お立ち台から2kmほど下流まで歩いて 来たが今の所何も無し。
時計を見ると5時を回った所だ。ライズが始まるとすればこれからだろう。踵を返し元来たバンクを先ほどよりもさらにゆっくり歩く。ビックベンドを過ぎたあたりでようやくグッドサイズのライズを見つけた。

ストーキングしてポジションに付く。バンクぎりぎりの流れのヨレに頭を突っ込むように定位したレインボーはしきりに水面の対象物を補食中だ。ハッチはベイ ティスがメインだが、PMDのラスティースピナーも混じっている。ライズのタイミングをみるとベイティスが有力に思えたので、いつものベイティスパターン をタイミングを合わせて数投。見事無視。ラスティースピナーを数投。これも無視。アントを数投。またまた無視。カディス、各種ダン、クリップル、スピ ナー、グリフィスナット、レネゲイト、アダムス、とにかく全部投げたが全部無視!!

これだけ投げてもレインボーはスプークもせず、淡々とライズを繰り返す。
こんな大胆なヤツにはもっとにじり寄ってフィーディングレーンを直撃を1000投が最も効果的であろうとの直感で4mほどの距離までつめる。一からフライローテーションをやり直すが、効果無し。
くぅ~、、。。疲れた。。もう時既に7時。あと残り30分でタイムアップだ。これはいわゆる「釣れないライズ」にハマった状態。全く出口が見えない。。こ の状況を打開するには、更なる観察が必要だ!これだ!!おもむろに胸元から倍率×8のニコンの双眼鏡を取り出し、ライズの鼻先を凝視した。

、、、こいつ、、泡食ってやがる。。。。

ベイティスやその他もろもろ全て無視し、やつのターゲットは泡だ!すなわち!クラスターだ~!!!
答えが分かればこっちのもんだ!フライボックスにあった一番でかいグリフィスナット#10を結び渾身の100投(大袈裟)!、、そして。。。無視!!

き、きぃいいぃ~!!!!

よくよく観察すると、こやつ、デカイ泡目掛けてライズしてやがるぜ!フライサイズにして#86/0くらいか!!そんなフライ持ってないゾ!
グリフィスナットの他、でかいパラシュートフライのポストをちぎり、ハックルをほどき、指でぐちゃぐちゃにした「即席アワフライ」なども試したが、もちろんダメ。
持てるアイディアのすべてを導入するもことごとく一蹴された。。

帰り道、真っ暗なヘンリーズフォークを横切りながら12日間も釣れない事実に改めて気づいた。。

さらにショックな事は、明日からは日本からの僕の相方がソルトレイク入りし、10日間の新婚旅行をしなければならない事だ!!忘れてたぜ!!イコール!釣り終了!!いと悲し!
その後の10日間は、僕にとって初の「アメリカ観光旅行」をし、生まれて初めてラスベガスやグランドキャニオンを見ました。とっても楽しかったヨ。

そんなわけで、結果、ヘンリーズフォークでは一匹も釣れませんでした!

しかし、今回の釣り旅で様々な状況をつぶさに体験出来た事はフライフィッシャーとしての肥やしになり、いつかは花が咲くときが来る、、はずだ。
このように、長々とアメリカでの滞在記録を書いてきたが、要約すれば「経験不足のフライフィッシャーには何をしても釣れない」という事だ。そんなヘンリーズフォークの恐ろしさを表現したかったのだが、一言で釣れませんでしたではあまりに大雑把で説明不足であるし、ヘンリーズフォークという川自体の誤解を招くかもしれないと感じて、このような長文覚悟の上、記事にしてみた。

これが滞在期間中の全てとは言わないが、チャンスがあった事も無かった事もなるべく文章にしたつもりだ。このように文章にしてみると、ほぼ毎日20インチクラスを釣るチャンスがあり、その機会ひとつひとつにフライフィッシングの醍醐味を堪能出来る。釣れるかどうかはまた別の話だ。
レネハロップはこの川にはビギナーズラックはあり得ないと言う。本当にそうだ。運もなければ釣れない事は確かだが、ストーキング、キャスティング、フライの選択、プレゼンテーションからドリフト、フライフィッシングを構成する全ての要素が、手落ち無く噛み合なければ釣れない。本当に釣れない。僕のように。

それでも川は常に流れて、レインボーはライズをしてくれる。向かい合う釣り人に、これほど平等にチャンスを与えてくれる川を僕は他に知らない。次に訪れた時も、きっとそんなチャンスを与えてくれるに違いない。

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